連作障害
【 れんさくしょうがい 】
同じ土地で同じ作物をくり返し栽培することで、野菜が生育不良を起こす現象。土壌の養分バランスが崩れたり、特定の病害虫が定着することで起こるもので、発芽しない、根が腐る、枯れる、実の出来が悪くなるなど、さまざまなトラブルを引き起こす。特にゴーヤ、キュウリなどのウリ科や、トマト、ピーマンなどのナス科、エンドウ、インゲンなどのマメ科、キャベツ、白菜などのアブラナ科の野菜は連作障害を起こしやすいと言われている。
連作障害を防ぐポイントは、同じ土で同じ科の野菜を連作しないよう工夫すること。違う科の野菜をローテーションで栽培する輪作や、栽培しない期間を設けて土を休ませるなどの方法が一般的。
「連作障害」。これ以上のすばらしい「言い訳」を知らない。
ベランダや軒先、庭などの限られたスペースで家庭菜園を楽しむ身にとって、野菜づくりは連作障害との戦いと言ってもいい。連作障害は、同じ土で同じ野菜を何度も作ることで起きる。たとえばトマトを植えると、トマトは成長するために土から養分Aを吸い上げるとする。またトマトはBという害虫を引き寄せ、Bは土やその周辺に卵を産み付けたりする。すると、トマトを育てた後の土は養分Aが不足した、B虫が発生しやすい土になる。
この土をそのまま使って翌年もトマトを作ると、成長に必要なAが足りなくなり、トマトが苦手なBもたっぷり寄ってきて、結果として2年目はいまいちな出来になってしまう。家庭菜園ビギナーが最初にひっかかる落とし穴だ。
じゃあトマトを作らなきゃいいのかといえば、そう単純でもなくて、トマトの後にナスやピーマン、シシトウ、唐辛子を作っても結果は同じ。なぜなら同じナス科の野菜は、同じような栄養を欲しがり、同じような害虫を引き寄せるからだ。広大な畑でもあれば、何年か寝かせたり、違う科の野菜をローテーションで栽培して連作障害予防も簡単だが、これがプランターや狭い庭での栽培になると話は途端にややこしくなる。
まず、そのプランターで過去どんな科の野菜を作ったかを思い出し、次に何科の野菜ならOKかをはじき出し、さらに日照時間などがそのOK野菜の生育条件に合っているかを検討しつつ、周囲のプランターで育てる野菜の背丈とケンカしないか吟味して、とはいえなんだかんだ言って作りたい野菜の種類なんてたかが知れているわけで、作れる野菜と作りたい野菜のバランスをどう考えたらいいのかとかあああああもうもうきいいいいいいいいいいいいい
かくして多くの家庭でちゃぶ台が飛ぶ。
やはり小スペースでの輪作には限界があり、いろいろ考えて工夫をしたはずなのに、ものすごく出来の悪い年が出て「連作障害か…」とため息をつくことがある。収穫量も栽培種類も少ないプランター栽培で、連作障害が起きた時の心的ダメージは甚大だ。
しかし「今年は連作障害」「また連作障害」と何度もつぶやいているうちに、ふと気づいた。うまく育てられなかった原因は他にもある。たとえば天候。たとえば水やり不足。あるいは水のやりすぎ。多くの場合は放置プレイ。そうした自分の怠慢を棚上げして「これって連作障害よねそうだよね」と思うことで感じる、そこはかとない安堵感は一体どうしたことか。
連作障害。そこには「人類には抗うことのできない大自然の驚異」が潜む。自分のせいじゃないもんね的な不可抗力感。「連作」という言葉に漂う、年またいで頑張った感。責任転換することで、全てが許される気がする壮大な万能感。これはひょっとして人生のあらゆるシーンで活用できるミラクルワードかもしれない。
「つまづいたっていいじゃないか、連作障害だもの」
(総選挙でセンター奪回した大島優子が一言)「…この連作障害が見たかったんです」
「営業成績が悪いのはどうしたことだねキミ」「連作障害です」
「アタシの親友と浮気するなんて一体どういうつもり?」「連作障害です」
「先生、私の病気はいったい…」「連作障害です」
「先生、脈がありません!」「午前4時20分、連作障害です」「わあっお母さ〜ん」
そのうち「RS」と略されるようになり、「アイツちょーRS」などとJKの間で言われるようになり、そのうちそもそもの意味がわからなくなって死語になり、悲惨な末路をたどって人々の記憶から消えていくに違いない。ああよかった、農業用語で。
そんな妄想をふくらませながら、出来の悪い野菜の言い訳を必死に考えている今日この頃である。
文:アキエダ / 絵:サノア