バットグアノ
【 ばっとぐあの 】
コウモリの排泄物や死骸が石灰質の洞窟に長い時間をかけて堆積し化石化した天然の有機肥料。一言でいえばコウモリのフン。植物の花を美しくしたり、野菜の実や果実を大きくおいしくする高品質のリン酸を豊富に含むことから、「肥料の王様」「幻の肥料」と呼ばれ、最近の有機栽培において欠かせない肥料として注目を浴びている。
日本で市販されているのはインドネシア産やフィリピン産のものが多い。
バットグアノとは「木村さんの決めゼリフ」である。
バットグアノのグアノは、珊瑚礁の島に海鳥の死骸や糞、エサの魚・卵の殻などが数万年単位で堆積し、化石化したものをあらわすケチュア語。ケチュア語とは耳慣れないが、なんとインカ帝国の公用語として使われていた言葉だという。まさか家庭菜園でインカ帝国に出会うとは。黄金の実がなったらどうしよう。
他のリン酸肥料に比べて野菜に栄養素がズバッと効くとか、家で使うにはスメルに難アリな鶏糞などと違って、ニオイがしないので室内栽培でもOKだとか、何かともてはやされているバットグアノだが、知る人ぞ知る特殊肥料だったバットグアノの知名度を高めたのは、そうこの人。
東京農大バイオセラピー学科の木村正典先生。
2011年度までEテレ『趣味の園芸 やさいの時間』でプランター栽培の講師を務めていた御方である。
六本木のバーとか行かなそうなカントリーで温和なお顔と、流行とは無縁のまじめメガネ、そして授業なら間違いなく爆睡必死の心地よすぎるお声。そんなソフトな先生が「バットグアノ」と口にした時のあの衝撃たるや。牛糞でも鶏糞でも骨粉でもなく、バットである。グアノである。ギャップが激しすぎる。
とにかく木村センセはバットグアノが大好き。トマトといえば、バットグアノ。イチゴといえば、バットグアノ。ニンジンといえば、バットグアノ。南方仁といえばペニシリン、木村正典といえばバットグアノ、である。
あまりに連呼するので、番組で土づくりの場面になると「言うよ言うよ言うよ、出たバットグアノー!」なんて楽しみ方ができるようになった。そのうち「隠し味にバットグアノ」「恋の悩みにバットグアノ」とか言い出すんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、昨シーズンで講師をやめてしまわれた。つくづく残念。東京農大の学生がうらやましい限りだ。
ちなみに木村センセ、お顔は華奢な感じなのだが手元が実にたくましくてすばらしい。土を混ぜているところなんか、なかなかどうしてセクスィー。「さすが、バットグアノだけに」と妙な納得感を醸し出す、それもまたバットグアノの魅力である。
文:アキエダ / 絵:サノア